遺言書作成のメリット


最近、遺言書を作成する方が増えています。

遺言書そのものの認知度の向上や、皆さんの権利意識の向上によるものと思われます。

 

遺言書を作成しておくことは、言い換えれば生前に遺産分割方法を決めておくことです。

遺言書のメリットは、次のとおりです。

1.相続人間の争いを避ける

「うちなんかもめるわけないよ。もめるほどの財産なんてないからさ」

このようにお考えの方は結構多いのではないでしょうか。

しかし、実はそうではありません。

 

最高裁判所の司法統計をみてみましょう。

下のグラフは、遺産分割調停事件の遺産価額による事件数の統計です。

(家庭裁判所における遺産分割事件の価額別件数/平成25年度)

このグラフを見てわかるとおり、遺産分割調停事件にまで争いが発展してしまうケースの遺産価額帯で最も多いのは1,000~5,000万円以下のゾーンです。

次に1,000万円以下のゾーンです。

この2つのグループの合計で、すでに遺産分割事件の75%を占めます。


なお、金額だけ見ると大金のようにも見えますが、この金額は預貯金だけでなく、不動産評価、有価証券など多くの遺産の合計額です。

また、旭化成ホームズが平成25年におこなった統計では、65歳以上世代の残した遺産の平均額が4,700万円というデータもありますので、この5,000万円以下のゾーンは、決して一部のお金持ちの相続とはいえません。


つまり、遺産分割が争いになってしまうのに、実は遺産の額はあまり関係ないことがわかります。

 

もちろん、すべての相続手続き全体の中でみれば、争いになるケースの方が、ずっと少ないはずです。

しかし、いったん争いになると、とても大変なのが遺産分割だったりもします。


相続人の立場からは、「亡くなる前に遺言書をちゃんと作っておいてよ」とは、なかなか切り出せないものです。

残されるご家族やご親戚のために、遺言書を作るかどうかは、自分自身で決める必要があるのです。

 

「おそらくもめないだろうけど、万が一ってこともあるし、残された相続人のことを考えて、きちんと遺言書を作っておいた方がいいな」

 

このように考えてもらえるのであれば、きっと残されるご家族の皆さんも安心されるのではないでしょうか。

 

2.将来の相続の際、遺産分割協議書を作成する必要がなくなる

遺言書が「ない」場合の相続手続きでは、「遺産分割協議書」の作成が必須ですが、この遺産分割協議書は作成にあたって、絶対のルールがあります。

それは、次の3つです。

  1. 相続人全員による協議であること
  2. 全員一致で遺産をどう引き継ぐかを決めること
  3. 相続人全員の実印を押印すること

 

これは、逆に言えば、上記の3つのルールを守ることができないようなケースでは、遺産分割協議が不可能であり、その結果、遺産の承継がまったくできないことを意味します。

 

しかし、遺言書を作成しておけば、「遺産分割協議書」の作成は不要です。

よって、次のようなケースでは、遺言書の作成をオススメします。

  1. 相続人のなかに、長年連絡をとっていない人がいる
  2. 相続人のなかに、海外在住の人がいる
  3. 相続人のなかに、行方不明者がいる
  4. 相続人のなかに、成年後見人がいる
  5. 子や孫がいない

 

上記1~2の、相続人のなかに、音信不通の人や海外居住者がいるケースは、事実上、遺産分割協議を成立させることが難しいケースです。

また、手続き上押印をおこなうことが難しいケースでもあります。

 

上記3~4の、相続人のなかに、成年後見人、行方不明者がいるケースは、遺産分割協議書を作成する前提として、裁判手続きが別途必要になるケースです。

その分余計な費用や時間、お手間がかかります。

特に、行方不明者がいるケースでは、「不在者財産管理人の選任申立て」や「失踪宣告」など、非常に複雑な手続きを要しますので、絶対に遺言書を作成しておいた方がよいでしょう。

 

上記5の、子・孫がいないケースですが、この場合は、配偶者及び兄弟姉妹が法定相続人です。

(一般的にこのような場合は、配偶者だけが相続人であると誤認されているので注意が必要です)

そして、この子・孫がいない場合の相続手続きは非常に複雑です。

兄弟姉妹は第三順位の相続人であるため、その第三順位であることの立証書面たる戸籍謄本の量が非常に多くなるほか、多くの場合で、多重相続が発生している、または発生しやすいからです。

また、一般的には相続人同士の世帯も異なるため、遺産分割協議が難航することも多く見受けられます。

 

上記1~5のようなケースは、あらかじめ遺産分割協議の難航が予想されるケースです。

このような場合でも、あらかじめ遺言書を作成してさえおけば、将来の相続手続きの際に、遺産分割協議書を作成する必要がありませんので、スムーズな相続手続きをおこなうことができ、ひいては残された相続人が安心して遺産を承継することが可能です。

 

遺言書は「転ばぬ先の杖」です。

上記1~5のような事実が事前にわかっているのであれば、遺言書の作成を強くオススメします。

3.相続人ではない人にも遺産を残せる

たとえば、かわいいお孫さんにも遺産を残したい。

介護などでお世話になった息子のお嫁さんにも遺産を残したい。

 

こんなご希望をお持ちの人も多いかと思います。

しかし、通常、お孫さんや息子さんのお嫁さんは法定相続人ではありませんので、相続の際、遺産分割協議で遺産を取得することはできません。

もちろん、遺産分割でいったん相続人に遺産を引き継いでもらってから、お孫さんやお嫁さんに遺産を譲るという方法も可能ですが、この方法だと莫大な贈与税が課税されてしまうリスクがあります。

 

こんなときでも遺言書があれば、遺産を直接引き継いでもらことができ、贈与税が課税されることはありません。

(これを「遺贈」といいます)


遺言書の種類

遺言書には大きく分けて次の2つの種類があります。

 

1.自筆証書遺言

 全文をボールペン等で自筆する方式の遺言書です。

 

【メリット】

  • 費用がほとんどかからない

 

【デメリット】

  • 全文自筆しなければならない。
  • 誤字脱字などで内容を訂正する場合は、民法所定の厳格な方式でおこなわなければならない。
  • 専門家の監修なしに作成した場合、内容的に不備が多くなりやすい。
  • 将来の相続の際、筆跡、内容をめぐってトラブルの原因となりやすい。
  • 将来の相続の際、家庭裁判所で「検認」という手続きが必要になる。
  • 将来の相続の際、金融機関等で遺言書として認定してもらえず、結局相続人全員の署名押印を求められる。

 

したがって、自筆証書遺言は、遺志を相続人に伝えるというメッセージ的な効果はあるものの、デメリットも非常に多いと言えると思います。

 


2.公正証書遺言

公正証書という公文書にする方式の遺言書です。

 

【メリット】

  • 自筆するのは署名のみ
  • 原本が公証役場で保管されるので(遺言者は謄本を保持)、偽造変造がまったくない。
  • 専門家監修のもと作成されるので、内容的な不備がない。
  • 将来の相続の際、遺言書が公文書となっているので、トラブルになりづらい。
  • 将来の相続の際、家庭裁判所で「検認」手続きをしなくてよい。
  • 将来の相続の際、金融機関等での相続の手続きがスムーズ。

【デメリット】

  • 費用がかかる
  • 証人2名が必要(相続関係者は証人になれません)


このように、遺言の方式には2つの方式がありますが、当事務所では「公正証書遺言」をお勧めします。

 

自筆証書遺言は、法律の定める様式が余りに厳格なため、とても作成しづらいという実情があります。

遺言の内容を全文間違わずに自筆するというのは、並大抵の集中力ではできませんよね。

間違えた場合は、民法所定の訂正方法にのっとって訂正しなければなりませんが、これがまた大変です。

 

また、遺言書の効力が発生するのは、将来、遺言者がお亡くなりになったときですが、そのときすでに遺言書を書いたご本人がいないわけです。

 

「はたして、この遺言書は本人が書いたものなのか?どうも筆跡が違うような気がするぞ」

 

「生前、ここに書いてることと違うことを言っていたぞ。無理やり書かせたんじゃないか」

 

このように、自筆証書遺言の場合、後日、相続人間でトラブルになるケースが非常に目立ちます。

せっかくの遺言書がかえってトラブルの種となっては本末転倒です。

 

一方、公正証書遺言では、費用が発生するのがネックですが、上記のとおり多くのメリットがありますので、なるべくなら、公正証書遺言を作成した方がよいのではないかと思います。


当事務所では次のサポートをご用意しております。


【公正証書遺言作成サポート】

遺言書

遺言書の起案、証人2名就任、遺言書作成時の立会、公証役場との打ち合わせ、遺言書の公正証書化まで、一貫してサポートいたします。

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